大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(ラ)579号 決定

一、労働委員会の救済命令は、その認定した不当労働行為の性質、態様、これに伴う諸情況に応じて迅速且つ効果的に不当労働行為を排除し、右不当労働行為によりそこなわれた労働者の地位を原状に回復し、もつて団結等労働者の諸権利の保障に資することを目的とする行政庁の行政処分であるから、右目的達成のため必要であれば、それが使用者に不能を強いたり、著しく苛酷にわたるものでないかぎり、委員会の裁量によつて適切合理的な内容を盛ることを得るものと解すべきである。したがつて、将来における同種もしくは類似の行為を禁止する命令も、その発生の具体的なおそれが現にあるかぎりこれを発し得べきであつて、ただその内容があまりにも抽象的であるためこれを受けた使用者が右命令を履行するために何をなすべきかが具体的にわからないようなもの、その他命令の履行が不能あるいは著しく困難なものは違法とせざるを得ないに止まると解すべきである(最高裁判所昭和三七年一〇月九日判決参照)。そして将来の行為の禁止といえども救済命令が原状回復を目的とするものであることと何ら矛盾しないことはいうまでもない。

これを本件救済命令についてみるに、その主文第一項は、将来における不当労働行為を事前に禁止したものではあるが、右救済命令および本件記録により窺われる救済命令の原由となつた不当労働行為の内容、その他の諸情況をあわせ考えると、右命令を発する際、抗告人会社が将来も同種あるいは類似の不当労働行為を継続ないし反覆する具体的なおそれがあり、救済命令の目的達成のためにはこれらを事前に禁止する必要のあつたことが明らかである。次に、右命令の内容に『抗告人会社は、工場長・課長をして救済命令申立人日本労働組合総評議会全国金属労働組合所属のプリンス自動車工業支部の組合員に対して組合の支持を弱めるような言動をなさしめたり、また係長、班長が係員に対し就業時間中に同旨の説得活動を行なうことを放置してはならない。』という一項のあることは原審記録編綴の右命令書写しによつて明らかであるところ、同項中「組合の支持を弱めるような言動」もしくは「同旨の説得活動」とあるのは、いずれも各種の具体的行為を包括する概念であり、その限りにおいて抽象的であることはいうまでもない。しかし、右命令に付せられた理由(前記命令書写し参照)によれば、右命令を発するに当つて、東京都地方労働委員会が会社側職員のいかなる「言動」、「説得活動」を不当労働行為と認定しているかは極めて明白であり、右命令主文中の右各語句の意味するところが、右理由中に認定されたところと同種もしくは類似の「言動」、「説得活動」にほかならないことは救済命令制度の趣旨から当然了解できるところであるから抗告人会社が右命令に応じて何をなすべきか、あるいは何がその違反になるかを弁別し且つこれを実行、避止するに難くはない。それ故、右命令主文に用いられた語句のこの程度の抽象性は、これがため該命令自体をいわゆる抽象的救済命令(たとえば、単に「支配介入をしてはならない」と命ずるが如き)として違法視させるに足りず、もし語句のこの程度の抽象性をも違法とするならば、本件の如き場合において救済命令による原状回復の目的達成は殆ど期待し難いといわざるを得ない。

二、確定した救済命令に対する違反行為につき労働組合法三二条後段が過料の罰を以て臨むのは、もつぱら救済命令に基づく原状回復を実効あらしめんがためであつて、過去に行われた不当労働行為に対する処罰を目的とするものでないのは勿論、右命令に反しその後にくり返えされた同種不当労働行為に対する処罰でもあり得ない。抗告人は、後者についてその不当労働行為であることにつき労働委員会の審査を経ず、その存否についての裁判所の公開審理を受け得ないのは憲法三一条、三二条に反するというけれども、その行為が不当労働行為であつて救済を要すべきことはさきの救済命令手続において当該労働委員会によつてあらかじめ判断を受けていることであるのみならず、その行為が真に存するか否かは管轄裁判所が非訟事件手続法の定めるところに従い当然審理をするのであり、また、その科するところの過料が前述の目的のためにする単なる行政罰である以上、非訟事件手続法第一三条に従い右審理が公開されなくても何ら違憲ではない(最高裁判所大法廷昭和三七年(ク)第六四号、同四一年一二月二七日言渡判決参照)。

(川添利 荒木 田尾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!